男山遠景
清和天皇の貞観元年(859)、南都大安寺の高僧・行教が宇佐宮に参籠し、八幡大菩薩の示現により、王城鎮護の神託が授けられました。宇佐宮に準じた六宇の宝殿が造営され、翌貞観2年4月に正遷宮が執り行われて、石清水八幡宮が男山に創建されました。御祭神は、中御前が応神天皇(誉田別尊 )、西御前が比咩大神(多紀理毘賣命 ・市寸島姫命 ・多岐津毘賣命 )、東御前が神功皇后(息長帯比売命 )の御三座神です。貞観5年、行教は境内に護国寺を開きました。石清水八幡宮は神仏同体の八幡大神を祀り、本社・摂末社と堂塔伽藍が一体となった神仏習合の霊場となり、神官と僧侶とが併存する宮寺の組織を構成しました。
天皇・上皇の御崇敬は篤く、天元2年(979)の円融天皇をはじめとし明治10年(1877)の明治天皇まで、行幸・御幸は240余度を数え、伊勢神宮に次ぐ天下の宗廟として公武の政権から信仰されました。天下国家の安寧を祈った仏神事の祭礼は、鎌倉時代前期の記録によると年間約60度(勅節10度)を数えます。とくに朝廷の祭祀としての放生会と臨時祭は盛大でしたが、ともに戦国時代に途絶えました。しかし、放生会は延宝7年(1679)、霊元天皇が再興され、明治維新期の神仏分離(判然)を経て、現在の勅祭・石清水祭として承継されています。また、武家の祭祀には、鎌倉幕府が助成し、ついで室町幕府の足利将軍家が主催した安居会があります。石清水安居は荘厳な神事として、神君・家康の遺命によって徳川将軍家からも保護されました。
藤原宣孝「大宰府符」
石清水八幡宮が所蔵する史料は、古文書・古記録と聖教・縁起などの典籍類です。古代・中世の神社史料としては、質・量ともに白眉といっても過言ではないでしょう。明治政府の修史事業として編纂が開始された『大日本古文書』「家わけ第四」の「石清水文書」が、明治42年(1909)3月からいち早く刊行された点からも歴史的な価値がうかがえます。
昭和36年(1961)2月17日、宮司家に相伝された「田中家文書」が国の重要文化財に指定されました。
さらに、平成11年(1991)6月7日に「菊大路家文書」(旧「善法寺家文書」)などが追加指定されました。その後、平成26年8月21日に員数の変更が行われました。現在の指定件数は下記のとおりです。
(1)古文書類
①巻物(796巻)②掛軸(5幅)③折本(21帖)④冊子本(368冊)⑤書状(1025通)⑥地図等(10鋪)⑦落款等(11顆)⑧田中宗清願文(2巻)
(2)書籍・典籍類
①類聚国史巻第一・第五(2巻、昭和38年7月1日追加指定) ②石清水八幡宮護国寺略記(1巻、平成12年6月27日追加指定)
平安時代から明治時代にいたる史料は、調査中の未指定文化財を含めて、古文書約8千点、聖教類を加えた総計は約1万点を超えています。
徳川家康社務廻職判物
石清水八幡宮文書の基幹となる「田中家文書」を中心に、修理と保存の歴史についてまとめておきます。第1に田中道清・宗清父子の鎌倉前期の修史事業です。歌人・藤原定家との交流で知られる宗清が編んだ「宮寺縁事抄」は、縁起・日記・物語・典籍・文書・和歌などを目録化し、重要な史料を収録しながら類別に編輯された史料叢書です。身代と等しい「累祖相伝之書」「家之重宝」と、宗清は述べています。
第2は神道家・吉田兼俱と親交のあった田中奏清による戦国期の修理です。奏清の制作にかかる表紙・外題、裏打・巻子装、また乱丁・錯簡などの修理記録が相当数あります。第3は田中敬清と東竹召清による江戸時代の修理・写本事業です。「奏清六代孫」と語った敬清は、主に巻子装に尽力しました。召清は敬清の養子で、敬清の実子・要清が得度すると、召清は家督を要清に譲り庶流の東竹家を再興します。その際に「田中家文書」の写本を作成し、「東竹家文書」を編集しました。その他にも、善法寺家・新善法寺家らの祠官家を中心に、ひとしく修理が繰り返され、保存・相伝されました。
幣殿及び舞殿
文化庁の指導に基づく国庫補助事業として、平成・令和の古文書修理が推進されています。保存を目的とした修理にともなう調査によって、本紙の紙背文書・裏書、軸木銘などから貴重な新知見を得ています。また花押の検討から案文(写し)ではなく正文が判明した例や、いわゆる糊着文書の復元修理によって古代・中世文書が新たに発見されています。
石清水八幡宮研究所では、石清水八幡宮が所蔵する全史料の新目録の整備を目指して、調査・研究を行っています。また、石清水八幡宮関係研究文献(歴史・文学・宗教など関連の論文や著作)の網羅的な蒐集を実施しています。
本データベースは、原本の安全な保存・管理とともに、デジタル化した貴重な歴史文化遺産を世界に発信し、公開してより多くの方々に活用していただくための基盤です。古文書アーカイブの視座から、石清水八幡宮文書の歴史的な価値をさらに高めていきたいと考えております。